設備だけでなく、住み心地を改修するという発想

マンションの住み心地に大きく関わる、室内温度・湿度のコントロール。
外気温の変動に影響されすぎず、室内の温熱環境や空気質を快適に保つため必要とされるのが断熱性能です。
建築環境の熱や空気移動を研究する尾崎明仁先生に、その考え方や効果を伺いました。

第1回 断熱の基礎知識 長く置き去りにされたマンションの快適性

尾崎 明仁

AKIHITO OZAKI
九州大学大学院人間環境学研究院 都市・建築学部門 教授

建築で生じる自然的あるいは人為的な熱・物質・空気の移動現象を理論的に解析し、複合的な建築環境の形成メカニズムを明らかにしています。また、それらの建築物理解析を基に、快適性・健康性・省エネルギー性・耐久性に優れた「住環境デザイン」、および先進的な設備システムや自然エネルギーを利用した「高機能デザイン」について研究しています。

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ようやく2000年頃から断熱性能が注目されるように

日本でマンション建築が加速したのは、核家族化が進んだ1970年代以降で、特に土地代の高い都市部では急速に拡大しました。今でこそ「高断熱・高気密住宅」という言葉はよく耳にしますが、当時は戸建も含め、住まいに断熱や気密が必要という発想はまったくなかった時代です。暖冷房といえば、こたつや扇風機のある一ヵ所に家族が集まる状態で、エアコンもまだ一般的ではありませんでした。その後、北海道など寒冷地では断熱住宅が広まりましたが、温暖地では「かえって夏は暑すぎるのでは?」と定着せず、今だにその誤解は多いですね。

1990年代、家庭用エアコンの普及とともに省エネルギーへの取り組みが始まり、住まいの温熱・空気環境が重視されたのは、「品確法※」が施行された2000年頃から。それ以前に建てられたマンションには断熱性が考慮されておらず、おそらく住みやすさを損う要因が長年そのまま放置されているかもしれません。リノベーションはそんな空間を室内側から体質改善できる有効な方法です。

※「住宅の品質確保の促進等に関する法律」: 住宅性能の表示基準、評価制度を設け、消費者が品質のよい住宅を取得できるようにつくられた法律。

■全国のマンションストック戸数 [ 平成24年末現在 約590万戸(居住人口約1,450万人) ]

(注)1.新規供給戸数は、建築着工統計等を基に推計した。2.ストック戸数は、新規供給戸数の累積等を基に、各年末時点の戸数を推計した。3.ここでいうマンションとは、中高層(3階建て以上)・分譲・共同建で、鉄筋コンクリート、鉄骨鉄筋コンクリート又は鉄骨造の住宅をいう。4.マンションの居住人口は、平成22年国勢調査による1世帯当たり平均人員2.46を基に算出した。

住みにくさを改善するリノベーションが急務に

築年数の経ったマンションの悩みで多いのが、結露の多さ、夏の暑さ、居室間の温度差などですが、おもな原因は外気と室内の温度差と換気不足。それらはしっかり断熱をすることで大部分を改善できます。断熱とは外気と室内の間に十分な境界を設けて、外気の影響を受けにくい室内環境をつくること。窓の結露はもちろん、壁などの内部結露も防ぎ、アレルギー源になるカビを発生させずクリーンな空気を保ちます。また、室内の空気を外に逃がさないため、空間全体の温度をほぼ平均的に保つことも可能に。居間と脱衣所など、急激な温度差が引き起こすヒートショックの危険も少なくなります。

断熱するなら全体改修をして、熱の出入口をつくらない

断熱をするなら室温と室内の表面温度をほぼ均一にするのが基本で、一部分ではなく、空間全体を改修することが重要です。全体改修なら外と内の熱の出入りはありませんが、断熱しない部分があると、熱が出入りしやすいヒートブリッジ(熱橋)ができ、かえって結露が悪化したり、冷暖房効率が落ちることも。部分的な断熱では、面積に比例した効果が得られるとは限らないのです。

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